MENU
学校長ブログ
毎年発行している、ガリレオプランの研究論文集が完成しました。
これは2年次に各ゼミで1年間研究した結果を3年になってまとめた、ガリレオプランの総仕上げとなります。卒業時の記念の本にもなるし、中にはこの論文を題材につかい、大学入試にチャレンジする生徒も増えてきています。冒頭に巻頭言を書きましたので、こちらにも記しておきます。
![]()
「物語の時代を生きる皆さんへ」
常翔学園中学校・高等学校 校長 田代浩和
3年生の皆さんが一年間、問いを立て、探究を重ね、仲間と議論しながら築き上げてきた成果が、こうして一冊の論文集として完成した事を心から嬉しく思います。
さて、この論文集の巻頭にあたり、最近の世界で起こった二つの現象に触れてみたい思います。一つは、韓国発のドラマ『イカゲーム』が世界中で大ヒットを記録したこと。もう一つは、つい先日話題となった「2025年7月5日に大津波が来る」という予言が、アジアの若者を中心にSNSで爆発的に拡散した出来事です。一見まったく異なるこの二つの現象ですが、実は現代社会を読み解く上で、そして皆さんの探究活動の意味を考える上で、共通する重要なヒントが隠されているように感じるからです。
『イカゲーム』は、借金に苦しむ人々が命をかけたゲームに挑むという、衝撃的な設定のドラマです。誰もが「そんなこと現実にはない」と思いながらも、視聴者の多くはどこかで登場人物に共感し、「もし自分だったら」と想像してしまいます。そこには、格差、競争、孤独といった、現代社会が抱えるリアルな不安が反映されているからでしょう。
一方、「7月5日の大津波予言」もまた、非現実的な話でありながら、多くの人が一時的にでもその話題に引き込まれました。根拠が曖昧でも、SNSを通じて「みんなが話しているから」という理由で、不安や恐怖が一気に広まりました。そこにあるのは、科学的根拠よりも、簡単に命を落としてしまうという驚愕する内容、拡散性、そして集団心理です。
この二つに共通しているのは、どちらも「不安を物語に変える力」を持っているということ。そして、その物語は、時に人々を魅了し、時に扇動し、時に思考停止させてしまう危うさも持ち合わせています。今、私たちが生きる社会は、事実や真実だけではなく、「どんな物語として語られるか」がますます重要になっている時代です。だからこそ、皆さんが取り組んだ「探究」という営みには、大きな意味があります。探究とは、表面的な情報や感情に流されず、問いを立て、仮説を立て、資料を集め、検証し、自らの頭で考えることです。それは、目に見えないノイズに惑わされず、「本当は何が起きているのか」「なぜ人はこう感じるのか」といった、本質を捉えようとする力を養う営みでもあります。
AIが進化し、情報が爆発的に増える今、私たちは常に「何を信じるか」「どう判断するか」が問われる社会に生きています。そうした時代に必要なのは、知識の量よりも、それをどのように問い、つなげ、解釈するかという思考の質です。
この論文集に収められた一つひとつの探究の記録は、皆さんがその力を身につけるために努力してきた証です。決して正解を与えられることのないこの時代に、自ら考え、選び取る力を育むこの姿勢こそが、未来を切り拓く鍵になると私は信じています。
どうか今後も、自分の心に生まれた「問い」を大切にし続けてください。そして、不安や情報に流されるのではなく、それらに向き合い、自らの軸で生きる人へと成長していってほしいと願っています。
以上